我々は待っていた。
この、歓喜の時をー
我々は信じていた。
この、感動の瞬間をー
あのとき、確実に本城陸上競技場は、選手、スタッフ、サポーター、観客、そのすべてが一体となっていた。
２０１４年にクラブ最多の１５得点をあげたエースは、２０１５年に満を持してJ1の舞台へと挑んだ。
だが、出場機会に恵まれず、２０１６シーズンに再びギラヴァンツ北九州へと戻る。
その時の覚悟と決意は、並々ならぬものだったに違いない。
いや、そんな簡単な言葉で言い表すことすら出来ないだろう。
我々が想像だにしないプレッシャーがあったはずだ。
ギラヴァンツは今季、開幕戦こそ勝利したものの、そこから久しく勝ちが拾えなかった。
いろんな要因の中に、得点力不足という言葉も並んだ。
その中で、かつてのエースは苦しみ続けた。
試合勘も戻らず、結果も出ず、いつしか、その精悍な顔からは笑顔が消えた。
歯を食いしばり、昔と変わらぬ鋭い眼光で、ひたすらゴールを狙い続けた。
それでも、届かない。
苦しみは少しずつ澱となり、心に静かに降り積もっていた。
それは、大きな壁だった。
あるいは逆境だった。
それでも、彼は諦めなかった。
もがき、苦しみながらも、一筋の光を探し、ひたすらにピッチを駆けた。
状態が良くないのは、彼自身が一番よく分かっていた。
我々の誰もが彼の復活を信じ、しかし思い通りに行かない結果に胸を痛め、時には声を荒げた。
だが、どうやら我々は一つだけ、重要なことを忘れていたようだ。
彼にとって、壁とは超えるためにあり、逆境こそが、彼の原動力となり得ることを。
高校卒業後、アルゼンチンへ乗り込んだときも、
ギラヴァンツの前身、ニューウェーブ北九州で活躍したときも、決して楽な環境などなかった。
プロサッカー選手として戦いながら、アルバイトを経験したこともある。
そんな状況の中でも、折れない心と真摯でひたむきな情熱を武器に、彼はいつだってその壁を乗り越えてきた。
まるで逆境がきつければきついほど、より遠くに行けるのだと言わんばかりに。
やがて、その歓喜の瞬間は訪れた。
裏天王山とも呼ばれた、ツエーゲン金沢との直接対決。
どちらにとっても絶対負けられないこの戦いは、壮絶なゴールの奪い合いとなった。
ギラヴァンツが先制すれば、すぐにツエーゲンが追いつき、引き離しても、食い下がる。
２対２の同点で進む後半１４分。
右サイドからのクロスを敵味方が競り合い、ゴール前にボールがこぼれた。
それに彼は反応した。
ごく自然に。
まるでそこに、ボールが来るのが分かっていたかのように。
これを偶然だとか、ラッキーだとか言うなら、それは違う。
ひたすらにゴールを狙い続け、逆境に屈することなく闘い続けた彼だったからこそ成し得たゴール。
天性の嗅覚を取り戻した瞬間だった。
ボールは軽やかにゴールネットに突き刺さった。
我々の待っていた瞬間だったー
我々の信じていた瞬間だったー
その感動は、すべてのファンを包んで弾けた。
本城陸上競技場が、湧いた。
池元友樹、背番号１４。
ギラヴァンツ北九州のユニフォームを着ての、実に595日ぶりのゴールだった。
ここからは、壁を超えた池元の、怒濤のゴールドラッシュが、きっと待っている。
そして我々も、これからはいつだって信じている。
彼がゴールすることを？
いや、違う。
いつだって壁を超え、逆境をバネに、我々に何度でも何度でも歓喜の瞬間を与えてくれることをー
